2018年6月、フリマアプリのメルカリが東証マザーズ市場に初値7,172億円というダントツ首位の時価総額で新規上場を果たしました。当時東証マザーズ市場では首位だったミクシィが約2,300億円だったのでかなりの大差です。また、東証市場全体でみても、200位以内で東宝、エプソン、ニコンなどといった名だたる大企業と同規模の時価総額がつきました。
今回は、そんなメルカリがどのように始まり、どのようにして競合ひしめくフリマアプリ市場でトップに上り詰め(なんと、後発参入だったみたいです!)、どのように組織形成をしていったのか?が記述された書籍、「メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間」の書評および要約記事として、自分が特に刺さった部分を引用しつつ、感想をまとめたいと思います。
この本について、ひとことで言えば、「自分の中で思っていた新規事業立ち上げの定石が崩れた本」でした。
メルカリさんは今でこそ、リーンな手法で〜〜〜とかをセミナーで話したりしてますが、立ち上げ直後の広告投資へのブッコミ方などを見ると、いわゆるPMF達成後にプロモーションをゴリゴリ回すといったスタートアップの定石とは違った方法で成功された企業であると理解できます。一般論を語っているノウハウ本の考え方に固執せずに、柔軟に事業推進ができるようにならないとなあと痛感させられる一冊でした。
※ps:これまでに、新規事業立ち上げやサービスづくりについて記事をまとめています。よろしければこちらもご覧ください。
「メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間」について
まず、本書「メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間」について、さらっと紹介します。
本書は、2018年11月22日に日経BP社から発売された書籍で、日本や米国でスタートアップを取材してきた日本経済新聞の奥平和行氏によって編集されています。Amazon内の「起業・開業のカテゴリー」や、「企業・経営のカテゴリー」で、4位〜5位の上位につけている人気の書籍です。(2019/1/2時点)
全259ページと、一般的なビジネス書と同程度の厚さですが、内容が非常に面白いため、あっと言う間に読み終えてしまいました。
メルカリは10年に1度の企業とも言われており、その設立経緯や苦悩などが描かれています。そのような歴史・背景やメルカリの内情に触れることができるのは、メルカリの経営幹部などの中核メンバーと顔見知りでもないと知る由もないため、「起業」、「新規事業」、「スタートアップ」、「上場・IPO」、などのキーワードに少しでも興味のある方は必読書です。
10年に1度のスタートアップがどのようにして生まれ、どのように勝ち残っていったのか?
それらを知りたい方は、ぜひ本書を手にとって読んでみて下さい^^
書評・感想
本記事では、この書籍の内容で、特に自分にとって気づきを得られた部分を引用しつつ、書評・感想を記載していきたいと思います。
本書が最も優れている点:時間軸の記載がある
本書が特に優れていると感じたのは、「各出来事に、きちんと時間軸がふられている点」です。
例えば、DL数が200万DLを超えた2014年5月にTVCMを打ったということ、そしてその一ヶ月前にカスタマーサポートの経験豊富な山田和弘氏を口説いてジョインしてもらっている点。
これには理由があるのですが、解説していきます。
なぜ、そのタイミングでテレビCMを打ったのか?
コロプラのソーシャルゲームである「魔法使いと黒猫のウィズ」がヒットした要因の1つにテレビCMの効果があったという話をある勉強会でコロプラの馬場社長から聞いたことがキッカケです。その内容というのが、まずインターネット広告を使って、累計ダウンロード数を100万DLまで持っていき、その段階でテレビCMを流す。そうすることで、テレビCMにて「100万ダウンロード突破!」というメッセージを使うことができて、CMの効果がさらに増すとのこと。
なぜ、その一月前にCS体制を構築したのか?
山田進太郎氏がウノウ時代にヒットさせた「まちつく!」というサービスにしても、小泉氏がもともといたミクシィにしても、ユーザー満足度という観点ではカスタマーサポートが大きな役割を果たしていたのですが、その時点でメルカリにはきちんとしたCS体制は欠けていました。しかし、テレビCMによって急増するであろうダウンロードに耐えることができるCS体制を構築なければ、せっかくCMでダウンロード数が増えても、結局評判(アプリストアのレビュー・星の数、など)を落としてしまうリスクがあったためです。
こういった成長ストーリーを語る上では、「いつ、どんな状況のときに、こういった経営判断を下したの?」というのが重要になると思っており、そういった面でも上記のように、どんなタイミングでTVCMを打ったのか?なぜそのタイミングだったのか?CMを打つ前に何を達成(100万DL)する必要があり、どんな準備(CSの体制構築)をしておく必要があるか?などが描かれているため、こうした実際の成長企業が行った施策の事例を参考にすることで、自分のビジネスに活かせる点があると思います。
今回のエピソードですと、「サービス初期のプロモーションは累計100万ダウンロードあたりまではインターネット広告で、その後はダウンロード数の実績を引っさげてテレビCMを打つと施策の順番として良いかもなあ」とわかります。また、「テレビCMを打ってダウンロード数が増えると、必然的に問い合わせなどの顧客対応が増えるため、きちんとカスタマーサポート体制を整える必要がある(逆に言えば、そこまではガッツリ整えなくても大丈夫)」というのがわかると思います。
以上、どうして本書のような事例形式の本が有益なのか?について、実際の書籍を引用しつつ紹介しました。
このようにすべての事例およびポイントを解説していきたいのですが、詳細は手にとって読んでいただくとして、残りの文章では、特に自分が気になった点を記載していきます。
本書で参考になった点のまとめ
これからは、個人的に参考になった、なるほどな!と思った文を引用しつつ、感じたことをまとめていきます。
メルカリの成長経緯
出典:メルカリ「成長可能性に関する説明資料」(http://pdf.irpocket.com/C4385/y7if/MTwR/OR5J.pdf)
サービス開始直後はたったの400DL(2013年7月)
2013年2月に会社を創業して、7月にリリースされたメルカリですが、メルカリの初日のアプリDL数はたったの400だったようです。ちなみに、Android版を先に公開し、その3週間後にiOS版も公開したようです。創業初期の数名という体制で、約5ヶ月でiOSとAndroid版をリリースできるスピードは、たとえ初期実装する機能を絞っているとしてもすごく早いと思いました。
そしてリリースから1ヶ月後ぐらいに、バリエーション15億円ぐらいで、3億円を資金調達します。
その時点で、まだ1日のダウンロード数は数千程度だったにもかかわらず、「今後6ヶ月で毎月5,000万円ずつを広告費に使う」というつもりだったようです。
「先にプロダクト側の改善をしてから広告をぶん回すのが、費用対効果が最も高いため正しい」という信条で自分は新規事業に取り組んでいたため、プロダクト側の機能がままならない状態でも改善をしながら、同時並行で広告を回したメルカリには大変学ぶことがありました。
リリース直後から、そんなに大規模な広告投資をするということを自分自身は考えたこともなかったので、非常に衝撃を受けるとともに、「自分も新規事業に対してこれぐらい大胆に広告投資できる胆力や決断力が欲しい」と思いました。せっかく現在新規事業のプロジェクトに関わっているため、メルカリの事例を説明しつつ、社長にプロモーション計画の改訂版を提案してみようと思います。
そして、本件を通じて現在のメルカリは、「Go Bold」というバリューを掲げているように、本当に”大胆な”戦略を当初からとっていたんだなあと気付かされました。
また、「PDCAが回しやすいAndroid版を先に公開して、ある程度プロダクトを最適化してからiOS版を公開するべき。」という考えも持っていたのですが、メルカリのようにAndroidの公開からほぼ同じ時期(3週間後)にiOS版も公開する、というのも参考になりました。ちなみに、ソースは本書とは別ですが、web版が公開されたのは2016年3月と、かなり先だったようです。web版がなくても、広告投資をガッツリ行ったというのもおどろきポイントでした。
サービス開始から5ヶ月で100万DL達成(2013年12月)
こちらは、別ソースからの情報になりますが、累計100万DLを2013年12月に達成したようです。つまり、公開から約5ヶ月のことだそうで、非常にはやいですね。
サービス開始から9ヶ月程度で約200万DL(2014年4月)
2014年5月に200万ダウンロードのメッセージを引っさげてテレビCMを打ったとのことなので、前月時点ですでに200万ダウンロードは達成していたと思われます。先程調達した3億円の多くをインターネット広告へ投資し、200万ダウンロードまで持っていったのだと思われます。
サービス開始から約1年後に約500万DL(2014年9月)
サービス開始から約1年後のダウンロード数は、なんと500万。
テレビCMを5月に打ってから、約4-5ヶ月の間で、300万ダウンロードも伸ばしたんですね。
その後のダウンロード推移
・サービス開始から約2年後に約1,700万DL(2015年6月)
・サービス開始から約3年後に約3,300万DL(2016年)
・サービス開始から約4年後に約5,500万DL(2017年)
・サービス開始から約5年後に約7,100万DL(2018年)
こうして時系列で見てみると、圧倒的な成長をしていますね。
ぼくも新規事業を立ち上げる際に、事業計画書を作ったのですが、ここまで急激な成長曲線を描く自身を持てませんでした。もっと「Go Bold」な計画を引いても良かったかも?と思いました。。。
実はメルカリの前に何度もサービス失敗してる
山田氏はもともと、ウノウという会社を創業していてエグジット経験があることを知っていたのですが、ウノウでは、様々なプロダクトをつくっては潰してを繰り返していたみたいです。本書で紹介されているサービスだけでも10個近くあって、その中で「まちつく!」というゲームサービスだけが生き残って、売却できたということでした。
現在のメルカリや子会社のソウゾウが、新規事業の立ち上げては撤退することを繰り返しているのも、この時の経験があるためでしょうか?
エジソンの有名な名言にも「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ。」とありますし、成功するためにはやはり数を打って、多く仕込んでおくことが非常に重要であることを認識できました。
さいごに
以上で、「メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間」の書評・要約・感想記事は終わりとなりますが、いかがでしたか?
10年に1度のスタートアップがどのようにして生まれ、どのように勝ち残っていったのか?
それらを知りたい方は、ぜひ本書を手にとって読んでみて下さい^^
合わせて、新規事業やサービスづくりにおいて参考になった本も以下に紹介いたします。