【要約・感想】父が娘に語る経済の話|ヤニス・ヴァルファキス|個人的年間ベスト本【書評】

父が娘に語る経済の話 レビュー
スポンサーリンク

話題の本書。

本屋に行くと平積みになっていますが、僕はこれを友人から紹介され読みました。

読んでみたら面白すぎて、3時間で読了した私が要約をまとめておきます。

スポンサーリンク

どんな本?

目次

まずは、目次から見ておきましょう。

・プロローグ 経済学の解説書とは正反対の経済の本

・第1章 なぜ、こんなに「格差」があるのか? ー答えは1万年以上前にさかのぼる

・第2章 市場社会の誕生ーいくらで売れるか、それがすべて

・第3章 「利益」と「借金」のウェディングマーチ ーすべての富が借金から生まれる世界

・第4章 「金融」の黒魔術 ーこうしてお金は生まれては消える

・第5章 世にも奇妙な「労働力」と「マネー」の世界 ー悪魔が潜むふたつの市場

・第6章 恐るべき「機械」の呪い ー自動化するほど苦しくなる矛盾

・第7章 誰にも管理されない「新しいお金」 ー収容所のタバコとビットコインのファンタジー

・第8章 人は地球の「ウイルス」? ー宿主を破壊する市場のシステム

・エピローグ 進む方向を見つける「思考実験」

一貫して世界経済に関する解説にはなっていますが、マクロ的およびミクロ的な経済システムを知る意義を、語りかけるような文体で滑らかに読むことができます。

感想

様々なコンテンツとリンクしながら、経済学の本質を平易に説いた本で、なんとなく理解していたようなことが的確に表現されるのはとても心地いいです。

今年(2019年)読んだ本No.1です。経済学が机上の空論ではなく、有機的な哲学だということが体感できました。

どの章も興味深かったです。これからの人類に関して概観を示しており、本書の後半が好きな方は『ホモ・デウス』とかお好きなんじゃないかなと思います。

 

それでは、章ごとのあらすじと要約です。

要約をざっくりかいつまんで。

第2章 市場社会の誕生ーいくらで売れるか、それがすべて

資本主義の発展過程を描いています。

と同時に、「交換価値」と「経験価値」という概念を紹介しています。

交換価値と経験価値

交換価値とは、物が市場で取引される価値のことです。例えば、山の中で自由に生息する木は、それ自体では価値がつきませんが、木材として出荷されると交換価値がつきます。この話は第8章で再び取り上げられます。

一方、経験価値とは、いわばプライスレスな価値のことです。「あの人とあんな場所に行って、幸せなひと時を過ごした」。この経験は市場で取引されるようなものではないので売り物としての価値は0ですが、その幸せな感情はいつまでも思い出の1ページとなって記憶に焼きつき、人生にとって間違いなく価値ある体験になっています。これが、経験価値です。

資本主義の発展段階

市場社会を招来する前段階の社会は「市場がある社会」で、交換価値という概念が存在しながらもそれが独占的な地位を占めることはなく、経験価値という価値が認められている、互酬性の強い社会でした。

いわば、「こないだお隣さんが助けてくれたから、今度は私が助けてあげよう」といったようなやりとりが成立する社会でした。

しかし、ヨーロッパに大航海時代が到来し、有名な「囲い込み運動」が行われると、生産の3要素である「生産手段」「土地」「労働力」が交換価値で測られるようになり、交換価値が経験価値を圧倒するようになっていきます。

これが資本主義の黎明期です。人々は結局、資本主義というシステムのもとで再びがんじがらめになり、人類史上最大規模の格差が生まれました。

第6章 恐るべき「機械」の呪い ー自動化するほど苦しくなる矛盾

日本でも盛んに叫ばれている、機械が人間の仕事を奪う話です。現状、人間生活を楽にするための機械化、というようには見えません。

本書中でも言及されていますが、AIの進化がこのまま進み、機械が自我に近い意識を持ち始めると、人間に対して反抗心を示し『ターミネーター』『マトリックス』のように人間を滅ぼすか、管理し始めるかもしれません。

 
 

これが、資本主義社会とAIが結託した世界の成れの果てです。世界を支配する巨大企業に理想的な社会の実現を期待しても、企業は慈善事業ではないので自らの利益追及に終始するだろう、と筆者は言います。

『マトリックス』の概要をまとめておきます。

人類は機械に滅ぼされなかったが、それは機械の動力源として人間を生かすためだった。人間は眠らされ管理されているが、反抗心を抱くことはない。なぜなら、精密な夢を見せられているから。

それが、「マトリックス」。人間は本当の世界を知ることはなく、機械に支配されていることも知ることのないまま一生を送ります。

そんな奴隷的な状況を打開するべく、モーフィアス率いる仲間たちが反旗を翻します。

人間が現状を打開する希望の物語ということもできるでしょう。

『マトリックス』

非常に気持ちの悪い設定ですが、傑作です。

さて、テクノロジー企業が利益拡大のために、人間と見た目や挙動のほぼ変わらないアンドロイドを大量生産したら、それは人間とどう区別されるのでしょうか。人間性は存在しなくなるのでしょうか。

平たく言うと、こう言うことだ。われわれ人間は、テクノロジーの可能性を余すことなく利用する一方で、人生や人間らしさを破壊せず、一握りの人たちの奴隷になることもない社会を実現すべきだ。

そのためにはまず何よりも、機械を共同所有することで、機械が生み出す富をすべての人に分配したほうがいい。自分たちが生み出した機械の奴隷になるのではなく、すべての人がその主人になれるような社会を作るほかに道はない。

では、どうしてそうできないのだろう?機械や土地やオフィスや銀行を所有している、ほんのひと握りの権力者たちが猛烈に反対するからだ。彼らを前にして、われわれはいったいどうすればいい?

『父が娘に語る、美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス)

第7章 誰にも管理されない「新しいお金」 ー収容所のタバコとビットコインのファンタジー

政治と無関係な通貨と、無関係ではいられない通貨のあり方を対照させて考察することで、新たな通貨のあり方を模索する章です。

第2次世界大戦期の世界中の監獄で、赤十字によって捕虜たちに支給されていたタバコですが、これが獄中で通貨として流通していました。

なぜ、この貨幣は政治と無関係でいられたか。それは、獄中でタバコが流通しているという事実を、貨幣の流通量(マネーサプライ)をコントロールしている赤十字が把握していなかったからです。

一方で、国家によるマネーサプライは第4章で見たように、国家によっていくらでも統制可能です。

ただし、貨幣が貨幣として機能するのは、その管理者に対する信頼が存在するからであって、ひとたび信用がぐらつくと、実際に存在しない通貨を生み出し続けていたデジタル通貨制度は崩壊します。

実際、2008年の世界的な金融危機で、政府および中央銀行に対する信頼は失墜しました。そんな折、

「2008年11月1日に、オンライン上のあるメーリングリストに投稿された一通のメールがこの問いに答えを出した。金融危機の数週間後のことだ。メールの差出人はサトシ・中本。それが個人なのかチームなのかはいまもわかっていない。このメールの中で、中本は見事なアルゴリズムを披露し、問題を解決した。そしてこのアルゴリズムが新しい分散型デジタル通貨の土台になった。その名はビットコインだ。」

『父が娘に語る、美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス)

歴史的な出来事です。仮想通貨という概念が歴史上新しいものではないことにも本書は言及してきましたが、ブロックチェーンというシステムによってついにそれがデジタル通貨として機能することになりました。

従来の通貨のように中央集権型のシステムではなく、PtoP(Peer to Peer)といって利用者が相互監視するシステムです。

ただし、筆者はこのシステムにも疑問を呈し、結局、通貨は政治と無関係ではあり得ないのだと主張します。

最終的な彼の主張を引用しておきます。

通貨が政治と切り離せないことを認めたら、われわれにできることはひとつしかない。通貨を民主化することだ。ひとり一票の重みを通して、通貨を管理する力を人々の手に与えるしかない。それがわれわれの知っているただひとつの防御策だ。

もちろん、通貨を民主化するにはまず、国家を民主化しなければならない。それは、かなりの難題だ。だが、不可能ではないはずだ。

『父が娘に語る、美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス)

民主主義は決して最高のシステムではないですし、間違った方向へ大衆を扇動する政治家が出現すると最悪な未来を招来します。実際、ヒトラーは選挙で選出され、民主主義で民主主義を否定し、破滅的な結果を招きました。

ただし、現時点では一番ましな政治システムであることも事実です。通貨を民主化するためには、革新的な発想の転換が必要です。

そして、本を推薦してくれた友人が最も感動したのが、本章の最終節の『父が教えてくれたこと』という項目です。この部分が、本書のクライマックスといっても過言ではないです。

エピローグ 進む方向を見つける「思考実験」

『経済学は「公式のある神学」』

市場社会の求めに応じて行動するか、あるいは頑なにあるべき社会の姿を求めて行動するか、つまり、アルキメデスのように社会の規範や決まり事から一歩外に出て成果を見ることができるかどうかが、決定的な違いになる。

『父が娘に語る、美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス)

この本で、俯瞰的な視点を手に入れましょう。

感想

元財務大臣が書いた本ですが、娘に向かって語りかけると言う体を取っているのでとても読みやすかったです。

経済の話というタイトルなので、敬遠する方もいるかもですが、むしろそう言う方ほど読ムト面白いと思います。経済の話を起点として、これからの世の中の価値観がどう推移していくかと言う俯瞰的な視点を持てます。

未来の世界を先取りした感覚を得ることができ、高揚感でいっぱいです。

お読みいただきありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました