もはや説明不要かと思われる、明治・大正期の文豪・夏目漱石。
『坊ちゃん』『吾輩は猫である』『こころ』『三四郎』『門』『それから』などなど、彼の決して長くはない作家生活の中で代表作を挙げるときりがありませんが、今回は個人的に一番好きな漱石の作品として、講演集である『私の個人主義』を紹介します。
こちらの作品は1914年(大正3年)に学習院の学生に向けて行われたもので、100年以上経った現在読んでも通じるところが十分にあると感じます。
まずは、引用から。ちょっと長くなります。
今までの論旨をかいつまんで見ると、第一に自己の個性の発展を仕遂げようと思うならば、同時に他人の個性も尊重しなければならないという事。第二に自己の所有している権力を使用しようと思うならば、それに付随している義務というものを心得なければならないという事。第三に自己の金力を示そうと願うなら、それに伴う責任を重んじなければならないという事。つまりこの三箇条に帰着するのであります。
これを他の言葉で言い直すと、いやしくも倫理的に、ある程度の修養を積んだ人でなければ、個性を発展する価値をなし、権力を使う価値もなし、また金力を使う価値もないという事になるのです。それをもう一遍云い換えると、この三者を自由に享け楽しむためには、その三つのものの背後にあるべき人格の支配を受ける必要が起って来るというのです。もし人格のないものがむやみに個性を発展しようとすると、人を妨害する、権力を用いようとすると、濫用に流れる、金力を使おうとすれば、社会の腐敗をもたらす。ずいぶん危険な現象を呈するに至るのです。そうしてこの三つのものは、あなた方が将来において最も接近しやすいものであるから、あなた方はどうしても人格のある立派な人間になっておかなくてはいけないだろうと思います。
・自分を認めて欲しいなら、まずは他人の個性を尊重すること
・権力を使用するときは、それに伴う義務を遂行すべきこと
・経済力を行使するなら、それに伴う責任を認識すべきこと
・個性・権力・経済力は人格の支配を受けるべきである、つまり人格が十分に形成されて初めてそれらを利用すべきこと
ということが唱えられています。
私自身、人格が未発達で気性の荒い性格をしており、自分の意見が通らない時につい怒鳴ってしまったりするので心に刺さります。
他人の意見を否定しながら論破してみたって、所詮他人の考えを力で変えることなんてできないし、論破された相手に残るのは自分への反感だけでしょう。
という意味のことを、サザンオールスターズの桑田佳祐さんも『ピースとハイライト』という曲の中で語っています。
内省的で俯瞰的な視点を経験し、人格をしっかりと形成して初めて、他者との共存をバランスさせることができ、健全な個性を育めるのでしょう。
そして当然、自己との対話は内的な営みなので、個人的に粛々と淡々とやっていくべきなのでしょうが、当ブログはある意味で私個人の知の外在的存在なので(大袈裟ですが汗)、少しまとめてしまっています。
おつきあいいただき、ありがとうございます。
主体的な生き方、経済力の本質というテーマではこちらの文献もとても面白かったです。
こちらはビジネス書なので、『私の個人主義』という比較的アカデミックな内容からは程遠いとイメージされる方もおられるかもわかりませんが、
・社会のあり方を認識した上で、それに惑わされず主体的な個人としてどう生きるか
・お金という存在をどう認識するか。どう使うべきか
というテーマに関して親和性を感じたのでぜひチェックしてみてください。
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