ブラジルが生んだ世界的作家、パウロ・コエーリョ。そして彼を一躍有名にしたのが、こちらの作品『アルケミスト』です。
世界文学といえば結構分厚いものが多いですよね。
同じラテンアメリカ文学でパッと思いついたのはノーベル賞作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』ですが、大作の『百年の孤独』に比べて『アルケミスト』はサイズとしては小規模。
1日で十分読める分量です。
しかし、コンパクトな見た目に反して中身は人生に対する重要な示唆の宝庫です。今年読んだ小説の中で最もオススメな作品なので、レビューしていこうと思います。
アルケミスト のあらすじ
アルケミストは時代不詳の小説です。具体的な時期や国名も登場せず、やや現実離れした場面設定です。(主人公の出身国の名前は出てきますが、架空の国名です。)
主人公の「少年」は、夢のお告げでピラミッドの下に財宝が眠っていることを聞き、旅に出るかどうかの選択に立たされます。
少年は羊飼いで、安定したそこそこ裕福な生活を送っており、その生活を捨てて旅に出ることは夢を叶えるための冒険でありながらも、夢を叶えられる保証はどこにもないため一種の賭けでもありました。
しかし、彼は周囲の人間との関わりの中で旅に出ることを次第に自分の運命と認識し始め、決心するのでした。ここでのキーワードは「前兆」です。
道中も決して順風満帆ではありませんでした。数々の苦境を乗り越え、「賢者」としての錬金術師(アルケミストは錬金術師のこと)との出会いを果たし、旅は進んでいきます。
アルケミストの感想と考察
アルケミストを読んで感じた、個人的な感想と考察です。
アルケミストが象徴するものとは?
アルケミストとはつまり錬金術師のことですが、錬金術は卑金属から金属を生成する技術のことで、少し化学を知っている方からしたらそれは不可能だとすぐに分かる、ある意味まがい物の技術です。怪しいですね。
僕も化学部に所属していた時代に真鍮を作る実験、具体的には金メッキを施す、金管楽器の表面などに応用されている技術に触れたことがありますが、「メッキが剥がれる」という言い回しがあるように、まがい物であることは事実です。
ただし、本書で言う「錬金術」は心理学者のカール・ユングが指摘するように「深層心理の技術」に近いのではないかと僕は考えています。
カール・ユング自身がオカルティズムに近いところがあるので話が少し胡散臭くなりがちですが(笑)、要するに
物質同士の結合と、人間の深層心理を構成する二元的な要素の結合をリンクさせて考える人たちがアルケミストだ
という主張をユングはしています。
そして、この意味での錬金術に本作の「アルケミスト」が近いのではないかなと。
つまり、アルケミストは本作中では胡散臭い詐術師ではなく、人間の深層心理と世の中の理(ことわり)を世界で最も把握した人物として描かれており、彼こそが「少年」の旅を導くのにふさわしい存在として選ばれたのではないかと思います。
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小説全体としての感想
タイトルだけ知っていた頃に、知り合いのイケメンデザイナーに強くオススメされた本です。
僕は知り合った人にオススメの1冊を選んでもらうことが多いのですが、彼が選んでくれた1冊は本書でした。
1冊選ぶとしたら?という質問が愚問であること前提の質問です。苦し紛れに1冊選んでもらうことに意味があると思いますし、彼らの中であえて選んだ1冊は十分に読む意味があると考えています。
彼が旅好きな人物であるという理由を差し引いても、本作は人生について現実離れしているにも関わらず、重大な示唆に富む作品であるということが読了後痛感され、読んで良かったと思いました。
僕はまだ世間知らずで夢を純粋に見続けられる年齢であるからかもしれません。
しかし、本書を通じて描かれている、夢を現実化させる過程で生じる幾多の苦難を克服するために要求される意志力の大切さ、あるいは夢を諦める時に生じがちな他責(誰かのせいにする)をすることの不適切さを抽象的に把握することができました。
この抽象的な概念を頭にとどめ、努力することを継続していきたいと思います。
本書から学ぶことはまだこれ以上あると思うので、皆さんも探してみて下さい。
見つけたら、ぜひ教えて下さい。
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そして、「現実離れした世界を男が旅する」という場面設定は筒井康隆さんの【旅のラゴス】という傑作に似ています。
『アルケミスト』を気に入った方は、こちらもオススメです。
映画化は?
小説がとても良かったので、映画はないのかな?と思い調べてみました。
2015年に、映画化の話が前進というニュースがありましたが、今の所は公開されていないようですね…。
これだけ抽象的な話をいったいどうやって実写映画化するのか非常に気になるので、ぜひ実写化して欲しいところです。
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