こんにちは。
今日は、村上春樹さんの短編集『神の子どもたちはみな踊る』を紹介しようと思います。
村上春樹さんと言えば、『海辺のカフカ』『ノルウェイの森』『1Q84』などの長編のイメージが強い方が多いかと思うのですが、短編でも数々の名作があります。
そんな短編集のうちの1作『神の子どもたちはみな踊る』なのですが、連作『地震のあとで』と題して新潮社の雑誌「新潮」に掲載された5編に加えて書き下ろしの1編を収録したものなので、総じて阪神淡路大震災のことが念頭に置かれた作品集です。
各編のあらすじ
UFOが釧路に降りる
妻と離婚した小村は、同僚の佐々木に依頼されて北海道に飛び立ちます。
佐々木に依頼されたのは、彼の妹にある荷物を届けること。
空港で佐々木の妹・ケイコと彼女の友人・シマオに会った小村はケイコと別れ、シマオとの時間を過ごします。
彼女が小村に語ってくれたのは、熊の話でした。
「そうね。そう言われてみれば、中身っていったいなんなんだろう?」豊島おさん入った。「私のお母さんは鮭の皮のところが大好きで。皮だけでできている鮭がいるといいのにってよく言ってたわ。だから中身なんてないほうがいい、というケースだってあるかもしれない。そうでしょ?」
『神の子どもたちはみな踊る』P.42
アイロンのある風景
同棲する2人の若者・順子と啓介は、しばらく前に不思議な中年男性・三宅さんに出会いました。
彼は焚き火と絵が好きで、海岸でよく焚き火をしています。
ある晩、三宅さんに呼び出された2人は焚き火に付き合うことになりますが、先に帰ってしまった啓介を除いて、三宅さんは順子に対して自分が最近描いた『アイロンのある風景』という絵画の話を始めました。
前作と同じく、キーワードは「からっぽ」です。
「自分がどんな死に方をするかなんて、考えたこともないよ。そんなこととても考えられないよ。だってどんな生き方をするかもまだぜんぜんわかってないのにさ」
三宅さんはうなずいた。「それはそうや。でもな、死に方から逆に導かれる生き方というものもある」
『神の子どもたちはみな踊る』P.73
神の子どもたちはみな踊る
ある宗教団体に属する母親と彼女の息子・善也、そして教団の会員・田端さんの話です。
母親は事あるごとに善也に自分のバックグラウンドを語ります。完璧な避妊をしたにも関わらず妊娠してしまった彼女は、その相手の産婦人科医に浮気を疑われて関係を断たれ、彷徨います。
そんな彼女を絶望の淵から救ったのが、教団の会員であった田端さんでした。彼は独自の論理で彼女の妊娠に意味を与え、彼女はその論理に心酔していきました。
成人後、一歩引いた立場から教団の論理を観察する善也のラストの言葉が印象的です。
神様、と善也は口に出して言った。
『神の子どもたちはみな踊る』P.112
タイランド
世界甲状腺会議に出席した研究者・さつきと、彼女の運転手であるタイ人男性・ニミットの物語です。
別れたアメリカ人の夫に深い憎悪を持つさつきを、ニミットは近隣の農村に連れて行き、占い師の老婆に合わせました。
また、ニミットはさつきに、熊の偶発的な交尾について語ります。
かえるくん、東京を救う
「かえるくん」と名乗る巨大なカエルが、冴えないサラリーマン・片桐の前に現れ、みみずくんと東京の地下でともに戦うことを勧めてきます。
かえるくんは自分が片桐以外の人間には見えないと主張し、地底で行われる戦い自体も、誰に褒められるわけでもなく、誰に知られるわけでもない戦い、それでありながらそれを避けることはできない、と言います。
結果的に、ある事件に巻き込まれた片桐は、夢と現実の区別がつかないまま、かえるくんが目の前で崩壊していく悪夢を見ます。
かえるくんとは、片桐にとって何だったのでしょうか…。
「でもそのかわり、かえるくんは損なわれ、失われてしまった。あるいはもともとの混濁の中に戻っていった。もう帰ってはこない」
看護婦は微笑みを浮かべたまま、タオルで片桐の額の汗を拭った。「片桐さんはきっと、かえるくんのことが好きだったのね?」
『神の子どもたちはみな踊る』P.186
蜂蜜パイ
大学で知り合った高槻、淳平、小夜子の3人は、高槻と小夜子の間に恋愛関係が形成され、それを知った淳平との間に懸隔が生じます。
高槻と小夜子は結婚しましたが夫婦関係はうまくいかず、夫婦の娘・紗羅に対して小説家の淳平は、熊の蜂蜜を巡る創作話をします。
その過程で、淳平は自身の小説の作風を大きく変更し、希望の持てる結末を志向した作品を作り始めました。
村上春樹さんの小説としては、結末の分かりやすい作品です。
まとめ
読み終わった後で、表紙裏のあらすじ文を読むと6編が巧く収斂していく感覚があります。
ぜひ、読後に表紙をチェックしてみてください。
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